PACIFIC WAY

パラオ短信
  新政権の体制    

上原伸一(うえはら しんいち)


 前号(パシイックウェイ2001夏号、通巻118号)のパラオ短信で報告した以降の動きやその他の出来事を簡単にリポートする。
<1>全閣僚確定
 4月末には全閣僚が承認され確定した。各大臣は以下の通り。
 ・厚生大臣    サンドラ・ピエラントッチ(副大統領兼務)
 ・行政大臣    エルブール・サダン(前国庫管理局長)
 ・司法大臣    マイケル・ローゼンタール(前特別検察官)
 ・社会文化大臣  アレキサンダー・メレップ(前上院議員、元社会文化大臣)
 ・国務大臣    テミー・シュマル(前大統領府官房長官)
 ・資源開発大臣  フリッツ・コシバ(前土地調査局長)
 ・教育大臣    マリオ・カトサン(パラオ・コミュニティカレッジ臨時学長)
 ・商業貿易大臣  オトイチ・ベセベス(元太平洋諸島開発銀行頭取)
 なお、大統領府官房長官には前教育大臣で、昨年の選挙で大統領選に立候補して敗れたビリー・クワルティ氏が起用された。   
 
<2>上院、チン氏の議員資格を巡り泥沼化
 昨年11月7日の選挙で上院議員に立候補し、25人の候補者中5番目の票を得たカムセック・チン氏の議員資格問題は、その後さらに混迷を深め泥沼化している。

 パラオ共和国憲法では、国会議員の資格として「選挙に先立って(直前に)5年以上パラオに居住していること」を要件としている。チン氏はナカムラ大統領(当時)により1997年司法大臣に任命されたが、アメリカ軍の将校を長く務めており、パラオに帰国したのはその少し前であった。そのため、チン氏は国会議員の資格がないとの指摘がなされた。選挙管理委員会は、チン氏の議員資格を認めたが、これを不服とする人々により、最高裁に“チン氏議員資格無効”の訴えがなされ、チン氏サイドは“議員資格有効確認”を求めた提訴を行った。

 最高裁では、チン氏の居住資格及びパラオ市民権を認める判決が出た。しかし、“上院議員の資格を唯一判断出来る”上院サイドでは、「チン氏がアメリカ陸軍の将校であった以上アメリカの市民権を有しているはずで、パラオでは二重市民権を認めていない以上チン氏はパラオ市民権を有しておらず議員資格がない疑いが強い。」として、チン氏の議員資格を認めようとしなかった。上院では、チン氏を除く8人の内5人がチン氏の市民権に疑問を抱く多数派を形成している。上院の資格委員会は、ジョシュア・コシバ委員長、ハリー・フリッツ議員、ユキオ・ドゴックル議員の3名で構成されており、ドゴックル氏が少数派、他の2人が多数派となっている。ちなみに、チン氏に好意的な上院の少数派はドゴックル氏の他は、スランゲル・ウィップス氏とミルブ・メチュール氏。

 チン氏に投票した人は勿論、酋長評議会を始めとして、世間一般の声としてはチン氏の議員資格を認める方向にある。チン氏サイドは、最高裁の有効確認を得ており、在パラオアメリカ大使館の臨時代理大使から「チン氏はアメリカ市民ではないし、アメリカ市民権を得た事もない」との証明の手紙も提出している。それに対し、上院多数派の言い分は、「陸軍の上級将校であった以上アメリカ市民権を持っているはず。」という一点である。上院サイドでは、アメリカ政府に対し正式にチン氏の身分(市民権取得の有無)照会を行ったが、アメリカ政府の回答は個人情報・プライバシーに関わる事については本人の同意書がなければ開示出来ないと言うものであった。

 上院は、チン氏に対し5月末までに同意書にサインして提出するよう求め、同意書と引き換えに議員資格を認める(アメリカ政府からの回答でチン氏のアメリカ市民権が確認された場合はその時点で剥奪)と提案した。しかし、チン氏は自らの資格証明は既に十分行われており、同意書にサインする必要はないと、上院サイドの要求を拒否した。

 これを受けて上院は、チン氏の議席を欠員とし60日以内に補欠選挙を行う決議6−49を5対3で可決した。この決議に基づき選挙管理委員会は補欠選挙を7月16日(後に31日に変更)に行うことを決定、6人の候補者の届出もなされた。対してチン氏は6月18日に最高裁に提訴を行い、補欠選挙の差し止めと共に上院多数派5人及び上院スタッフを原告として自らの議員としての地位確認を求めた。

 最高裁は、7月12日にチン氏の要求に基づき、7月31日の補欠選挙の実施差し止めを認めた。上院は7月16日に、「裁判所は最終的にチン氏の議員資格を認めているわけではないので、彼の議席は空席のままである。

 但し、彼がアメリカ市民権を有するアメリカ市民である事を証明する為に今後更なる調査活動を行う。」との決議を行った。この間に、昨年の選挙で次点の10位だったルシウス・ラキュウス・マルソル氏が、チン氏の議員資格が無効であるならば、次点の自分が繰り上がり当選すべきであるとして、自らの議員資格確認と補欠選挙の差し止めを求める訴訟を起こした。更に、チン氏の支持者が上院多数派5人に対しリコール請求の署名活動に入った。

 その後チン氏とコシバ氏との間ではお互いを“嘘つき”と強く非難するやりとりが行われており、この問題は先の見えない泥沼にはまり込んでしまった。
 
<3>憲法改正提案
 レメンゲソウ大統領は7月7日議会に対し次の点の憲法改正提案を行った。@議会を一院制とする事、A大統領と副大統領をランニングメイトとする事、Bパラオ人の親を持つ人に二重の市民権を認める事、の3点である。この提案は、憲法の基本的な発想や枠組みを変えようというものではなく、経験と実状に照らし現実的な改正を行おうというもの。今後、議会での議論を経て認められば国民投票にかけられる。
 
<4>K−B新橋繋がる
 1996年9月に崩壊したK−B橋は、現在新橋の建設中でコロール側とアイライ側からそれぞれ橋脚が組み立てられて来たが、7月18日に1本に繋がった。今年末に完成の予定。新橋は日本政府の全額援助により建設され、ナカムラ前大統領によれば、完成の暁には「日本=パラオ友好橋」と命名される予定。
 
<5>バラン・トヨミ氏逝去
 日本の人々にもよく知られ、国連はじめ国際的にも有名だったペリリューの女性第一酋長バラン・トヨミ・オキヤマ・シゲオ氏が7月5日死去した。戦前日本に留学していた女性で美しい日本語を使い、玉砕の島となったペリリューの慰霊や復興に力を尽くした。又、信託統治下ではパラオの伝統社会の紹介・説明の為、国連で証言もしている。多くの日本人が様々な形で彼女の世話になって来た。戦前の酋長制度の精神的有り様を体現していた人。バランはペリリューの女性第一酋長名。享年86歳。         
 
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<ご案内>
 
パラオ共和国
クニオ・ナカムラ前大統領の半生記
「草の根から」 販売のお知らせ
 
 1993年から2000年まで2期8年パラオ共和国の大統領を務め、1994年には念願の独立を達成したクニオ・ナカムラ氏が自らの半生記を発行しました。本人の話を元にマルウ・L・セイソン氏が写真と共に文章をまとめたものです。日本語版翻訳は、樋口和佳子氏とグアム新聞社。日本語訳には人名や肩書の表記に若干ゆれがあります。ミクロネシア議会議員からスタートして31年間公職に就いていたナカムラ氏の半生は、非核憲法成立から独立に至るパラオの政治史と重なり合うものです。本書は写真を中心に構成されており、全部で300枚の写真はパラオの近代史を目で確認出来る貴重な資料となっております。
 
 購入ご希望の方は、住所・氏名・冊数及び日本語版か英語版かを明記の上、メール(aminosan@serenade.plala.or.jp)かファクス(03-3768-9514)で“あみのさん”までお申し込み下さい。価格は、1冊3000円、消費税・送料込みです。まとめて購入される方には、値引きもさせて頂きます。支払いは、本と一緒に郵便振り替え用紙をお送り致しますので、それでお支払い下さい。それ以外の支払い方法をご希望の方は、その旨お申し出下さい。A4変形判、ハードカバー、オールカラー、全95頁です。なお、この本の売り上げの利益は、クニオ氏の兄、故マモル氏を記念した奨学制度の基金となります。