PACIFIC WAY
    
            新刊書紹介
  


『太平洋島嶼国の憲法と政治文化』 
  −フィジー1997年憲法とパシフィック・ウェイ−
                         東  裕 著
太平洋島嶼国の憲法と政治文化

 太平洋島嶼地域に関する出版物は少ない。とはいえ、文化や社会、つまり文化人類学的見地から島々を紹介しているものを探せば、近頃ではけっこう興味深い書籍に出会うことはできる。それらの多くは、伝統文化の実態あるいは伝統文化を保有しながら現代という時代の流れに適応しなければならない島々が、決して「太平洋の楽園」なんかではないという現実的な姿を教えてくれる。
 しかし、島々が現代社会への適応を如何に試み、どのように国作りを進めているのかについて、国家的枠組みの観点から分析している論文や書籍を探そうとすると、これが意外なほど少ない。今や島々は、いずれも主権独立国家の形態を整えているのだから、法制度や政治的枠組みを前提にした追究でなければ、島嶼国の国家的動向を正しく掌握しきれないはずなのだが。
 こうした研究状況の中で登場した本書は、国家形成の基本法となる憲法を切り口にして地域の政治体質を分析し、これまでの研究欠落箇所を見事に補完する作品になっている。これまでも島嶼各国の憲法や政治・法制度を紹介するだけの書籍は出版されているが、これら制度や法体系から地域の政治文化にまで切り込んだ研究書は、本書をおいて他には見られない。これは法理論を専門にしながらも、同時に長年の各国へのフィールドワークを重ねてきた著者ならではの成果だと言えるだろう。
 その本書が、地域政治体質を分析する際に中心的事例として取り上げているのがフィジーである。この国は1970年の独立以来、3度(
4度とも数えられる)のクーデタと新憲法の策定を繰り返し現在は憲法廃止状態の軍事政権下にあるが、それについては誤解に基づいた様々な言説が流れている。それは、国内政治の状況がかなり複雑なためだが、ここにこそ理解すべき島嶼国的な政治文化要因が潜んでいると著者は指摘しているのである。それゆえ本書は、分かりにくい現在のフィジー事情を理解する上でも、貴重な専門書に成っている。

(A5版上製 330頁 成文堂/2010年3月25日発行 定価:6000円+消費税)




もうひとつの戦後史 南の島の日本人』
                   小 林 泉 著
南の島の日本人 
                
「南の島」この言葉にはどこか、そこはかとないロマンの香りが漂う。明治から大正期、そして国策的膨張主義の昭和前半期にかけて、沢山の日本人がミクロネシアに渡った。まさに、南洋漫画『冒険ダン吉』的世界だったろう。が、その現実はロマンの具現化とばかりはいかなかった。そんな彼らの末裔は、地域人口約20万人のうちの2割超。とはいえ、彼ら彼女らを想起する今どきの日本人は極めて少ない。敗戦とともに、日本に棄てられ忘れ去られた人たちだったからである。しかし、このままではまずい。だから私は、かつて日本人であった彼らの存在を、どうしても知って欲しかった。 
                          著者のことばより

 ミクロネシアには、元プロ野球の投手で、トラック諸島に帰島してから大酋長になったススム・アイザワ、国連信託統治時代にミクロネシア議会の議長になり、ミクロネシア連邦を建国して大統領になったトシヲ・ナカヤマがいた。
 本書は、この二人の日系人の物語を軸に、明治以降、日本人が南洋に渡り、その結果として多くの子孫を残していったその経緯を綴っている。
 島々に渡った日本人はもちろん、彼らの子供たちの人生は、太平洋戦争の敗戦でガラリと変わった。すべての日本人は強制送還され、残された子供たちは日本人からミクロネシア人へと国籍を変えられたからだ。ミクロネシアの日系人と呼ばれる人たちである。
 もと日本領であったミクロネシアは今、三つの独立国と一つの米領に成ったが、これまでそれら国々から6人もの日系大統領が誕生したのだという。パラオやポンペイに行ったとき、日本名の人にも随分出会ったし、けっこう日本語が通じて驚いた。この本を読めば、「あぁ〜、そういうことだったのか」と良く事情が飲み込めたが、いままでそんな身近な歴史さえも十分に知らなかったことを恥ずかしく思った。そんな無知を他人に気づかれぬうちに、読んでおきたい一冊である。 
(四六判並製 230頁 産経新聞出版/2010年8月14日発行 定価:1680円税込)

 

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