PACIFIC WAY

    
      トンガ通信    

   トンガ暴動の真相  

又平 直子(またひら なおこ))

 
1月16日
 本日午後3時過ぎ頃から、首都ヌクアロファで暴動が発生した。
 今週は民主化運動の人達が政治体制改革の遅れに抗議して、王宮前広場に集まっていた。きっかけ/理由は不明だが、それが暴動に発展し、政治的背景を判っていない若者達が合流し、首都の官公庁の建物、商店街のガラスを割ったり、放火したり、路上の車を横転させ放火したりしてる。
 暴徒と化した若者達が様々な店舗から商品を盗んだり、アルコール飲料を盗んで飲み干し、酔っ払って、放火・略奪をしているようだ。夕方4時ごろには我が家からも黒煙が沢山見えたし、7:30pm現在も街の中心部からは黒煙が上がっている。
 どうやら、Westpac銀行、総理府、レイオラ免税店、パシフィック・ロイヤル・ホテル、フレンドリーブック・ショップ、ANZ銀行、Prema&Sons、Cowley Bakery、Shoreline Power、法務省などは燃えたようである。
 トンガ国内では現状の報道はあまりされておらず、ラジオで勧告が出ているのみ。NZのニュースでは報道されたようだ。通常ならそのニュースは1時間遅れでトンガでも放送されるのだが、今日は放送がない。また、TV Tongaも放送をしていないので、何がどうなっているのか不明。
 とは言え、家の中に居る限りは全く平常と変わり無しなので、ご安心ください。
 
 
11月17日
 17日未明より停電だったのでメールができなかった。今後数日は夜7〜10時と朝7〜10時しか電気が来ないとの情報である。
 ヌクアロファの中心部はおそらく6〜8割焼け落ちたと思われ、首都周辺の中国人店舗およびインド人店舗も壊滅的とのこと。あの新しいスター・シネマも焼けてしまった。昨夜遅くから、警察・軍も武器を持つようになったようだ。今日から1ヵ月はアレイパテ通り(アテネシのすぐ西の通り)、マテイアロナ通り(ヒヒフォ通り)、トゥポウラヒ通り(米国ピースコー事務所の通り)に囲まれた地域は、基本的に立ち入り禁止。集会禁止。
 ちなみに、我が家からマテイアロナ通りは徒歩30秒、トゥポウラヒ通りは2分。あと1区画広ければ、我が家も立ち入り禁止範囲である。街中に近いので沢山の方達からご心配頂いたが、大丈夫。ご安心ください。
 燃やされたパシフィック・ロイヤル・ホテルや、中国資本のデイトライン・ホテルの宿泊客数人が我が家に避難してきた。レストラン等が焼けたり、立ち入り禁止区域にあるので、食事をお出ししなきゃならないのだが、市場もスーパーも立ち入り禁止区域にある。でも、少し離れた場所にあるトンガ人のショップは開店しているし、食材もあるから大丈夫である。
 今日は村落部の野次馬が沢山街に押しかけていたようだが、単に人が多いだけで暴動は収まっている。Shoreline電気の事務所の焼け跡から焼死体6体、Molisi Tongaスーパーから焼死体2体が発見されたが、身元確認はできていないようである。いずれも従業員は全員無事、放火・略奪をしていた暴徒達だろう。
 節度のあるトンガ人達は、「昨日の出来事がまだ信じられない」「こんなことはトンガでは起こり得ない」「恥ずかしい、放火・盗みは許せない」「中国人・インド人が可哀想」とみんな言っている。中国人達は大使館に逃げ込み、安全な国外に連れ出してくれと要求しているそうである。
 そうそう、トンガ情報のMatangi Tongaの事務所も焼けてしまった。今後はとりあえずwww.planet-tonga.com/で様々な情報をご確認いただきたい。なお、国王・政府・各教会も人々に落ち着くように、今後の国の再建にみんなで力を合わせて頑張ろうと言っている。銀行は月曜から開くようだ。空港はまだ判らないが、今週の国際線は無いようである。また、街中のNZ航空、ポリネシア航空、国内線のAir Peauの事務所は焼失していた。
 事のキッカケは政治改革、特に国会議員全員を選挙でという要求を出していた人達が、今期国会最終日であった昨日、結論が出ないまま会期終了となったことに腹を立てた。昨夜遅く、政府は2008年の選挙から国民選挙で選出することに合意したそうだ。2年後の選挙については、暴動をせずとも、来期の国会で自然に民主化の方向に進んでいったと思われるから、「民主化」のスローガンを掲げた政治家達に、訳も判らず「反電力会社」「反中国商人」「反体制」「仕事も無く暇を持て余している若者」などが扇動され、蓄積していた鬱憤晴らしに暴動になったというのが真実に近いかもしれない。今回の事件で、逆に民主化運動離れをする人達もかなり出てきたようだ。
 それから、昨夜遅くからラジオ・トンガが放送を始め、ニュースはラジオ・トンガからしっかり入る。TVトンガとTonfonTVは電力事情が悪いので放送できないようだ。また、暴動が起こっている間は、取材陣も危険で取材できなかったとのこと。現在でもラジオ・TVトンガ・TonfonTV周辺は、警察・軍が厳重に警備しているそうである。
 偶然我が家に宿泊中だったNZ人のTVカメラマンが昨日は危険を承知で街中に取材に行き、かなり撮影をしたのだが、そのフッテージを海外に送る手段がない。今日明日で何とかファイルを圧縮してNZに送ると言っていたから、そのうち、NZ経由でBBCなどで報道されるかも知れない。
 
11月18日
 昨夜は我が家周辺はいたって静かで平穏だった。数箇所で昨夜、酔っ払った若者達が暴れ始めたようだが、即座に鎮圧されたらしい。今日も閣僚のみならず教会の指導者達も被害状況の検証と今後の対策を話し合うとのこと。
 朝のラジオニュースによると、今日NZから警察・軍が治安維持のお手伝いに来る。また、豪州から検死官を送ってもらうよう要請しているとのこと。昨日、すでに、何人かが逮捕された。今後も捜査を進め、主犯格の逮捕を進めるようである。
 今週は民間航空会社のフライトがキャンセルされているが、希望するなら日曜も空港使用を許可することになった。NZや豪州から空港治安維持要員が、この週末に来るそうだ。
 病院は機能している。ANZ銀行は焼失したが、別の場所を確保し、月曜から営業開始。知り合いの保険会社も焼けたが、大事な書類やコンピュータは焼ける直前に持ち出し、社長の自宅で業務を開始したらしい。
 トンガには確か消防車が3台くらいしかない。貯水タンクもそれほど完備していないから、ターゲットにされた建物が放火された後、木曜は風が強かったので、どんどん延焼していったのだろう。それにしても、集団心理は怖い。政治的意識ではなく、雰囲気で普通の人達が暴徒と化してしまうのだから。
 街中が立ち入り禁止なので、正確な情報はないが、街中は商店街のみならず、それら店舗の裏に一般家庭もある。それらがどうなったのか心配だ。大きな店舗は保険に入っていただろうが、一般家庭は火災保険など入っていなかったと思う。私はトンガに住んで10年、多くの人が私のことを知っているとは言え、見た目はアジア人だから、日常の買出し、支払いなどはトンガ人従業員に任せ、家からは一歩も出ていない。
 今、総理がラジオとTVで演説をした。誰を責めるでもなく、今回の出来事の悲しさを語り、また暴動の間に暴徒から様々な人達を守ってくれた正常な精神の人々に感謝し、その後、治安維持、復旧活動に専念してくれている人達に感謝し、今後は国民一丸となって国の再建に努力しよう、またその際、犯罪行為を犯しそうな人々がいたら、隣人同士でお互いを守り合おうとの内容。日中は、ずっと教会指導者達が、放火・略奪は犯罪である、悔い改め信仰を大切にするようにと語っていた。
 幸い明日は日曜。私の所属教会は立ち入り禁止区域内なので、教会にも行けないのかと心配したが、禁止区域内でも教会には行けるとの放送があり、ホッとした。人々の後悔、悲しみ、落胆、将来への不安は教会で癒されるし、将来への希望や力が湧いてくるからである。
 実際に今回の事件では、全く関係の無い商店からの盗みが酷かった。ある商店では、店内の冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、スポーツ用品など全部盗まれた。しかし、総理自宅や、郊外の中国人店舗など、近所の住民が暴徒に対してバリケードを張り、人柱になって守った場所も多々あったことが判明した。正常な人達がそれだけいたと知り安心すると共に、いかに放火・略奪をした人達が異常であったかが確認された。噂にしか過ぎないが、海外で犯罪を犯し強制帰国になった人達が多い地域、海外育ちの人達が多い地域ほど、破壊が激しかったとか。
 本来トンガの人達は信仰心も篤く、温和な性格。あのような暴動は考えられない。海外生活が長く、物質文明・貨幣経済に毒されていなければ、あそこまでの略奪行為はできないのではと思えるほど。トンガは小さな国なので、警察も軍も少人数。今日、NZと豪州から警察や軍など100人強が治安維持のために軍用機で到着した。
 今回の事件の結果、政治的には従来9名だった人民選出議員数を21名()に、それプラス、従来通り9名の貴族議員が貴族間で選出され、それら全ての選出議員の中から閣僚と総理を決めることになったようである。
 この方法はトンガに向いていないのでは、と疑問を持つトンガ人を多く知ってる。人口・人材が豊かな国ならいざ知らず、優秀な法律の専門家、運輸の専門家、環境の専門家、財政の専門家、医療の専門家等々が、現在は国王に任命されて大臣になっている。その人達の本業をないがしろにして3年ごとに選挙活動をさせてはいけない、と彼らは言っているのである。
 某国が中東に、いや、世界中に導入させようとしている民主主義に似た考え方かもしれないが、国によって抱えてきた歴史、国土の規模、多民族か単一民族なのかなど、事情は様々。その国の人々が真剣に考えてじっくりと時間を掛けて改革を進めていくべきなのではないかしら。今、私が一番読みたいのは、この数年掛けてまとめられた、国の内外に住むトンガ人達との話し合いで得られた改革案の報告書である。(事件発生前に、政府の改革案、私が読みたい内外トンガ人の意見を基にした改革案、そして、民主化運動急進派の改革案の3つがあった)
 扇動され、暴徒と化した人々の暴力と犯罪行為で勝ち得たと思われる2008年の新選挙制度が本当にトンガにとって良かったのかどうかは、5年後、10年後にならないと判らないかも知れない。
 で、日常生活に話を戻したい。とにかく、朝と夕方3時間ずつしか電気が無いので、その間に料理、洗濯、シャワー、メールなどをこなすのは結構大変だが、日用品は全て揃う。焼失したTCFというスーパーは、今日から倉庫で営業を開始したし、その他、多くの店舗は元の場所、あるいは代替店舗を見つけて営業している。立ち入り禁止区域以外に臨時野菜売り場ができ、今夜からATMも利用できる。銀行が焼ければ借金も帳消しかと思っていた人も居たようだが、全てのデータは豪州でバックアップしてあったそうである。
 
11月19日
 昨夜は停電することも無く、どうやら電気は24時間OKになった。実際に犯罪行為をした人達は、デジカメ・携帯などの文明の機器で現場を撮影されていたので、すでに100人以上が逮捕され、小さな警察の留置所には収まりきれず、軍の施設も使って収容されている。数十件の中華系商店が破壊されたが、残っている商店は村人達が交代で守っている。
 今日は立ち入り禁止区域内にあるバシリカ教会に行った。それよりずっと手前のクイーン・サローテ・メモリアル・ホールの駐車場に車は置いていけと言われ、そこから徒歩。いやはや、実際にトゥンギ・アーケード(ブック・ショップやエアNZがあった建物)やお隣のパシフィック・ロイヤル・ホテルが真っ黒に焼け落ちているのを見て本当にビックリした。教会の前の道路には炎上した車が放置されっぱなし。途中、最初に焼かれたShoreline電力会社の事務所の横を通ったが、本当に真っ黒。 街中の大半の建物は修復不可能な状況だから、あれを撤去するのが一仕事だろう。
 NZのメディアが昨日の午後到着したので、昨夜のNZのOne Newsでは炎上するヌクアロファの映像も見ることができた。一部の外国メディアで食材や日用品が不足すると書かれていたが、街中の店の多くは郊外に持っている倉庫が無事だし、港も無事なので大丈夫だろう。詳しいニュース・リンク、フォト・ギャラリーは
http://www.planet-tonga.com/newswire2/shakeit.php(様々なメディアの速報
http://www1.tonga-now.to/News/Newslist.aspx?ID=639(トンガ財務省所属の改革情報ユニット発信のタイムリーな公式情報
http://www.tonga-broadcasting.com/(ラジオ/TVトンガのオフィシャル・サイト
Matangi Tongaは事務所が焼失したので、現在仮事務所を探しているそうだ。AirNZは、明日からフライトを再開とのこと。
 
 今、初めてTVで街中の状況が映った。タウファアウハウ・メインストリート(海に向って)左側(西側)はアーケードからホテル、シネマまでが全焼。それ以降は海まで無事(店舗のほとんどはガラスが破壊され、中は盗まれていたが)。右側(東側)はソサエティ(ルナロッサ・レストラン)は建っているが、中はダメだろう。そこからBagwan(インド人店舗)までは全焼。角のUata Buildingは建っている。TCFスーパー(2階はSulianaレストラン)は全焼。でも、奇跡的にLanga Fonua、Friend's Cafe、Kelepi Tupou Officeは無事。
 ウェリントン通り南側は、Uataビルの隣からレイルウェイ通りまで全焼。北側もTCFスーパーからナラダム・ストアまで全焼。反対の角のラリタ・ストアから先も全焼。レイルウェイ通り東側は、ナラダムのみ全焼で、シャトー・アイスクリームまで無事。同西側はカフアからANZまで全焼。ANZの並びのオネタレストアは無事。Molisi、Taumoepeauの木造店舗は全焼。その角からファタフェヒ通りを右に行くとRoycoビルまで全焼。サローテ通りは角のポリネシア航空(兼パシフィック・ブルー)、カウリー・ベーカリー、逆側のトンガ入管は無事。カウリー隣のトンファ・ストアは全焼。
 上記のような様子が報道されたが、建っているビルでも構造的安全が維持されているかどうかは不明である。暴動が発生した木曜から土曜までの写真299枚が下記のサイトにアップされているので、ご覧ください。
http://planet-tonga.com/gallery/Riots-In-Tonga
 今日から、野菜市場、銀行などが別の場所で営業を開始し、日常生活はかなり元に戻った。明日・明後日くらいから、学校も再開されるようだし、予定されていた卒業式も明日・明後日以降に行なわれるとのこと。立ち入り禁止区域でも許可があれば仕事ができるようになっていて、許可を持っている人は9〜5時に限って出入りをするようにとラジオで言っていた。
 残念なことに、今回の事件は民主化運動急進派がある程度計画的に行なったようである。事前に、岩・石・火炎瓶などを準備していたらしい。現時点で、52名が逮捕されたとのことだが、おそらく実行犯だけだろう。果たして扇動した急進派の人達も逮捕されるかどうか、思案のしどころだ。
 また、腹立たしいのは、急進派系を支持するような報道がかなりNZのメディア経由で出ていることである。NZや豪州の軍や警察が治安維持の助っ人に来たことを正当化するための報道が多々ある。とにかく、普段はいたって平和でのんびりしているトンガだから、警官の数も少ないし、消防車も最近新しいのが3台入ったばかりだし、軍とは言っても王族警備程度のもの。木曜の朝から交通整理に始まり、暴徒は暴れるわ、略奪は始まるわ、そこここで放火はあるわで、三日三晩休み無しで治安維持をしてくれたのだから、助っ人を頼んでも当然。それを、民主化支持なら良いが、政府側・体制側を支持するのは間違っているだの、助っ人を頼まなければならないこと事態が、王制を維持しているトンガが機能していない証拠などと言われた日にゃ、頭に来るのも当然である。全く事実の報道・中立な報道がなされていないのだから。
 事実の報道ではないものに、日本メディアの記事もあった。トンガは今回の件で、国家非常事態宣言もしていなければ、夜間外出禁止令も出ていない!立ち入り禁止区域の指定と、非常時権限令が発令されたのみである。非常時権限令の中に、必要に応じて特定時間内の外出を禁止する場合があると言う事項があるのみ。国家非常事態と報道されたのは、誰かがState of EmergencyをState Emergencyと勘違いしたようだ。
 更に、急進派の連中が今回の事件を「起こるべくして起こった」「我々の勝利」「民主化に移行するための避けられない行程」などとまくし立てるので、いい加減にせい!と怒鳴りたくもなる。
 そんな中、NZ在住のトンガ青年達が素晴らしい原稿を投稿してくれた:
http://www.tonga-broadcasting.com/artman/publish/article_629.shtml英文だが、とにかく感動した。
 放火で焼け出されたMatangi Tonga Onlineが再開された。ギリギリまで炎上する街中の写真を撮り、更には炎と熱に追い出されるまで事務所にこもって執筆していたようで、最後は持てるものだけ持って逃げたとのこと。仮事務所も確保されていないが、ブロードバンドにアクセスできる場所ならどこでも記事をアップし続けるとのこと。以下がリンクである。写真もご覧ください。キャプションがしっかりしているので、ヌクアロファ市内をご存知の方には判り易いかと思う。
http://www.matangitonga.to/article/tonganews/crime/destroyed201106.shtml
http://www.matangitonga.to/article/photonews/restricted_zone201106.shtml
 市内の再建だが、焼失・破壊された建物の多くは民間企業。保険に入っている企業も多々あったようだから、建物の建て直しなどは、各企業がしなければならないかもしれない。しかし瓦礫を処理して更地に戻す作業、そして、電気・電話・水道などの復旧工事は政府の仕事。でも、トンガ政府にはお金無いだろうなぁ。
 
11月22日
 トンガでの日常生活はかなり戻ったとは言え、街中はまだ立ち入り禁止である。放火・略奪はあくまで犯罪だから、街中は「犯行現場」として、遺体の有無のみならず、出火原因の究明(放火に使われたのが何であるかなど)も必要だからである。
 政府は今回の暴動の損害は600〜750万米ドルと言っているが、焼失した商店が抱えていた在庫のコストも考えると倍額かもしれない。そして噂によると、ひょっとしたら暴動の場合、保険はカバーしないかも。確かに、我が家で保険に入る際もサイクロン、地震、空き巣などはカバーするようにしたが、暴動なんて全く考慮はしなかった。
 朝から晩までラジオを聴きながらネットのニュースをチェックしているが、それにしても、海外メディアの報道は酷い。1つは、前回も書いたように、NZ/豪州は自国の警察と軍を派遣したことの正当化に繋がる報道に偏っているから、戒厳令だの非常事態宣言だ、外国人・トンガ人が慌てて国外に避難しているなどと嘘の報道だらけになる。更に、トンガの民主化急進派の人達も自己正当化しなければならないし、その上、トンガ国内のメディアには相手にしてもらえないから、海外メディア経由で必死になって「民主化」の正当性を訴え、現政府や国王・総理批判、責任転嫁に専念しているのである。今回の暴動は政治的色合いが薄く、別の犯罪要素が強い。だから真の意味で民衆のサポートを得ていないだろう。その証拠に、トンガのメディアが占拠されなかったことが挙げられる。
 この事件で、多くの人々が職を失った。店舗移転や営業再開の資金も無く、ローンを抱えたままの商店主達。それら商店で日当1000円未満で働き、家族のローンを返済したり、家計を支えていた人達、みんな収入源を失った。
 海外メディアの大げさな報道のお陰で、若干上昇傾向にあった観光業界は壊滅的なダメージを受けた。別名フレンドリー・アイランドと言われたトンガ王国の信用が地に落ちた。トンガ政府はこの1年ほどで、税制改革(関税・所得税)、労使関係改革、公務員法改革等々、私達が追いつけないほどのスピードで改革案を提示してきていた。腐敗・汚職をなくすための努力もしてきていたし、肥大化していた政府縮小の努力もしていた。それには、元来「民主化」の旗の下に集まった有能な人材が続々と政府に起用されていった経緯もある。現在「民主化」の旗の下に残っている人達は、本当に何を求めていたのだろうか?
 我が家の日常はほぼ元に戻ったとは言え、ディーゼル/ガソリン、輸入ビール、ワイン、タバコなどは品薄である。布地屋さんは、ほとんど焼けてしまったから、来年度(1月末)の学生の制服など困るだろうな。コピー屋さん、写真の現像所、さらにはまともな家電屋、レストランも全部、焼失か立ち入り禁止区域内にある。(10月上旬に冷蔵庫を買い換えておいて良かった!
 昨夜、禁止区域外にある高級プチ・ホテル/レストランのブラック・パールが放火未遂に遭った。居るんだねぇ、まだ目が覚めていない輩が。もちろん、即刻逮捕されたけれど。
 立ち入り禁止区域にあった国土省土地登記証明課や出生・死亡・結婚・離婚証明書局、開発銀行、トンガ入管/パスポート課も、区域外に仮事務所を開設し業務を始めてくれた。昨夜は、禁止区域内の教会が聖歌隊の練習を禁止区域外で再開したようだ。私が所属している聖歌隊メンバーは、半分以上が禁止区域内に在住している。いつになったら、再開できることやら。
 
11月23日
 本日、今期国会の正式な閉幕式があり、国王ジョージ・トゥポウ5世が閉幕スピーチをした。その英訳が下記のサイトに掲載されている:
http://www.tonga-broadcasting.com/artman/publish/article_647.shtmlラジオでスピーチを聞きながら、涙を浮かべている人達(私も含め)が沢山いた。
 昨日もお伝えしたように、国王はスピーチでこの1年ほどで政府がどれだけの改革を進めてきたかをしっかりと示し、合法的デモと違法行為をしっかり区別して、違法行為を犯した(犯させた)人達を法律に則り厳重、かつ速やかに対処すること。今後は一丸となって復興に努めること。さらに、トンガに合った民主化を推進させることを約束してくれた。
 そうそう、海外メディアの誤報を正式に否定するためだろうか、法務大臣が、戒厳令など出ていないことを改めて発表した。被害にあった企業と政府との会議があったそうだが、NZ豪州の専門家の援助の下、各企業の建物・商品・在庫などが、どのような経緯で略奪・焼失したかが判明しなければ、保険が下りるか下りないかが決まらないようである。政治的暴動なのか、犯罪集団の略奪・放火なのかで、対応が変わるとのこと。なるほど。私も今日は銀行やら野菜市場やらに行って来たのだが、すでに開店営業している中国人ショップもあったし、一番心配していた中国野菜ショップも野菜市場に品物を出してくれていた。大根、キュウリ、白菜、モヤシ、韮、ほうれん草、カリフラワー、ブロッコリー、青梗菜などは、そのお店じゃなければ手に入らなかった。値段はひと山2ドルだったのが3ドルになっていたが、当然、当然。これで全くOKである。
 それから、民主化急進派の国会議員3名は地下に潜っているとのことだったが、ぬけぬけと閉幕式には参加していた。貴族議員1名が、「あのようなテロリストと一つ屋根の下に居るのは御免だ」と言って国会に入るのを拒否したそうだ。
 暴動勃発時には総理・政府を批難していた人達も、暴動当夜にラジオで流れた急進派の人達の勝利宣言を聞いて急進派離れが一気に進んだ(私も放送を聴いていてふざけるな!”と思った)。無責任な勝利宣言の英訳は以下のサイトにある:
http://www.matangitonga.to/article/tonganews/politics/victoryspeech221106.shtml
立ち入り禁止区域内に住んでいる人達は、本当に可哀想。区域外の私は今まで通りに、必要に応じて買出しに行ったり銀行に行ったり、24時間いつでもできるが、それもままならない。現場検証があとどのくらい続くのやら。確かに現場の映像を観ていて、「あっ、あのトタン板、まだ使えそう。それに、あのパイプだって、廃棄処分にするなら欲しいな」などと私でも思ってしまうのだから(思考経路の現地化がかなり進んでいるかしら?)、まだまだでしょうね。
 
11月26日
 今日はバシリカ教会の中まで、車で行けるようになった。MatangiTongaも新しい事務所を確保し、続々とニュースをアップしている。それにしても、今回の政府の対応は本当に迅速で素晴らしかった。あっと言う間に、様々な省庁の部署を禁止区域外に移転したし、空の便と海の便を確保したし。警察にはかなりの量の略奪品が返還、没収されているようである。で、この数日でかなり事件の裏が判って来た。
 権力欲・復讐心などに凝り固まった民主化急進派と、華僑・印僑の所為で商売が落ち目になったと誤解している少数の民間ビジネス(トンガ・ナショナル・ビジネス・アソシエーション)が合体し、海外で罪を犯しトンガに強制送還になっている若者達を酔わせて動員、首都中心部と中国系・インド系商店を破壊させたと言うのが、一番判り易い説明だと思う。                   
 政治的色合いが薄いのは、メディアが占拠されなかったことで証明できると以前指摘したが、実は政府の建物もほとんと破壊されていないのである。そして、まず狙われたのが、アルコール類を販売していた店舗だった。ありったけのアルコール類を最初に略奪し、それらを飲み干し、次に金目の物を略奪して、ついには放火。街中が終わったら、郊外の中国系・インド系店舗破壊を続行。
 現在、民主化急進派およびトンガ・ナショナル・ビジネス・アソシエーションの幹部は、機会さえあれば相変わらずの浪花節を吟じているが、一般大衆のほとんどはソッポを向いており、じわじわと警察による証拠固めが進んでいる。すでに連中の名はNZや豪州入管のブラック・リストに載っているようなので、国外逃亡も難しいだろう。民主化急進派が暴動当夜に行なった勝利宣言こそが、彼ら(急進派)の惨敗宣言となった。
 トンガはトンガなりのペースで確実に民主化が進んでおり、それに国民は満足しているし、今後の進展を期待している。政府はその期待に必ず応えてくれると、みな確信している。こんな状況の中で、昨日はドイツからの観光客(一人旅の女性)が予定通り私のロッジにチェック・インしてくれた。今日は島内ツアー、明日は本島周辺のリゾート・アイランドにデイトリップ。明後日から、国内線で離島に遊びに行くとのことだ。街中に入れないこととレストランの数が限られてしまったこと以外は、今まで通りに観光できるから、皆さん、ご安心ください。
 私が所属している聖歌隊も、禁止区域外で歌の練習が始まった。でも、少数の阿呆ドモに破壊されたヌクアロファの町が復興するまで、人々の心の傷は癒されないだろう。
 
11月27日
 以下のサイトに暴動発生当時のビデオが公開されている。どうやら、イタリア人観光客が撮影した映像のようだ。
http://video.google.com/videosearch?q=tonga+riots トンガとしては本当に恥ずかしい限りの映像である。
「持つ者」は「持たぬ者」に物を分け与えるべきだ、何でもシェアすべきだと考える原始共産主義が人々の考えの根底にあるからだろうか、自分の所有物でなくても、平気で盗っていく非道徳的行動。罪悪感の欠片も無い表情で映像に略奪風景が映っている。逮捕者は300名を越え、今日もTVやラジオでは、「現在、16日の証拠写真・ビデオ等の分析、現場目撃者からの調書も作成中。それらの手続きが済んだ段階で、警察の正式な逮捕活動が始まる。家族・近所の人達・職場の人達の前で逮捕されるのは恥ずかしいだろうから、皆さん、早く自首してください。」と呼びかけている。
 今のトンガでは、中国系商店が村落部から無くなったら、村落部の人達は本当に困るだろう。首都から無くなっても、やはり困る。中国系商店は24時間営業していたし、安かったし、品揃えも良かった。今回の騒動の黒幕でもあるトンガ・ナショナル・ビジネスの人達の店舗は24時間営業していないし、村落部にも支店を持っていない。在トンガの中国系住民が1000人程度と言われているが、トンガ人1000人を雇って村落部に支店を出し、24時間営業をしたり、真夏の炎天下で様々な野菜を作る作業をさせてみたらどうなるか。
 我が家に遊びに来た青年が、「直子はいつも何かしているね。お客さんの世話をしてるか、タオヴァラを編んでいるか、最近は布草履だ。なぜ?」と聞いてきたので、「私はあなた達トンガ人と違って、海外の親戚に電話一本すれば、仕送りしてくれるような経済状況じゃないのよ。お金が必要なら、自分で稼ぐしかないの」って答えた。
 在外トンガ人の会が、過日「我々が母国の親戚に対し、常に仕送りをしてきたのは果たして良い事だったのだろうか」との疑問を呈していた。
 民主化急進派の人達(と言うか、「似非」民主化急進派)が「国民は自由も無く、王制の下でずっと苦しんできた」などと言っているが、飢え死にする人も居なければ、宿無しも居ないし孤独死もない。子供達は大声で空き地で遊び、病院は無料。道路に乞食は居ないし、寝たい時に寝て食べたい時に食べる。親戚が来れば就労時間中でも空港に迎えに行き、葬式があれば1〜2週間簡単に休める。このような生活が、自由でなければ、何と言えばよいのだろう。映像を観たショックからなかなか立ち直れない。
11月28日
 街中は立ち入り禁止で、瓦礫処理が始まった。復興へ向けての第一歩である。焼失したTonfon事務所の焼死体と言うか骨を分析したところ、死者は6名ではなく、7名だった。
 それから、「Silent Majority」(黙っていた大衆とでも訳しましょうか)が、法と秩序と平和と良質な治世を求める嘆願書を提出したそうである。内容には今後も民主化への努力を続けて欲しいが焦らずにゆっくりと、と言うメッセージが含まれていた。署名数は1894名、後から50名が追加され、今後も増加すると期待されている。政治的集会などは開かれていないから、良識のある人々が電話やメール、ファックスで呼び掛け、自分達は似非民主化推進派が頻繁に口にする「国民・大衆」ではないことを明確に主張したのである。
 逮捕者数は300名超、起訴されている人達は来週にでも法廷に現れるようだ。それにしても、返還あるいは没収された略奪品には、冷蔵庫、船外機、ダブルベッド、冷凍庫などなど大型で重いものが沢山あったが、どうやって持って行ったのか、警察も驚いている。
 昨日ご紹介したビデオ、ご覧になった方は、かなりショックだったと思う。トンガの恥だから悩んだが、事実はお知らせすべきだと思った。トンガはつい2ヵ月前に国王崩御で国葬が営まれた。その際人々は各国メディアに、「トンガはRespect(敬意)を大切にする国です」と誇らしげに語っていた。そして2ヵ月後に、他人の所有物、苦労の末の商店街の建物に対して「何の敬意も表せず」、それらを破壊し略奪した。あるトンガ人が、「トンガは周辺諸国に戦いを挑み、占拠し、他国の人々を奴隷としていた1600年代にまで舞い戻ってしまった」と語っていた。今後もより多くのSilent Majorityが良識ある判断をし、全力で国の復興に努力してくるよう願うばかりである。
 
12月6日
 立ち入り禁止区域が日々狭くなってきた。実質的な被害が集中している区域以外はかなり通行が自由になったし、元の場所で業務を再開できる店舗も出てきた。今週にでも、焼け跡のコンクリート建造物の残骸などを破壊する作業が始まるようである。業者の話では一旦作業を始めれば1週間程度で更地になるとのこと。そして、一昨日夜、TVで総理が「とにかく被害にあった企業が、一日も早く元の場所で営業活動が始められるようにすることが大切。みんなで力を合わせ、できれば1年後には新しいヌクアロファの街ができているようにしたい」と語っていた。確かに、実質的に破壊された地域の面積はそれほど広くはないから、財源のことを考えなければ、1年以内に新生「トンガ銀座」が完成していてもおかしくは無い。
 私は先週の木曜日には、教会の友人の息子さんの結婚披露宴にも行って来た。ただし、普段なら、そのような席ではワインとかビールも出るのだが、ノーアルコール。トンガ人とアルコールのミックスは危険だから。
 多くの店舗は郊外に仮店舗を出しているので、ちょっとした買出しをするのにも広範囲を車で移動しなければならず、ガソリンがあっと言う間になくなってしまう。それに、そのような店舗・銀行の周辺に駐車場も乏しいので、路上駐車するしかなく、道路は渋滞。移転店舗で何とか営業を再開した企業も、クリスマス用の在庫は全て焼失しているので、元の1〜2割程度の商品しかなく、寂しい限りなのである。
 当初のショック状態からは立ち直ったが、現実問題として1000名近くが職を失い、153企業が被害を受けたから、そこから生じるべき税収が無くなってしまった。瓦礫処理・警備・囚人の食費など政府は、なけなしの財源を使い果たしており、今後は更なる公務員削減、減俸などを余儀なくされると思う。現時点では数値として発表されていないが、観光業界は脳死状態である。我が家など実際の被害も無く、立ち入り禁止区域でもないのに、暴動以降の予約はキャンセルで、2月1件予約が入っているのみ。お隣のフィジーでも昨日クーデターがあったから、南太平洋でクリスマスを予定していた人達は、おそらく目的地を変更しているだろう。平和でフレンドリーで、素朴が売り物だったトンガ。強制送還になった酔っ払い犯罪集団が放火略奪をした汚名を返上できるは、いつになることやら。
 過日お話したSilent Majority以外の人達も、今回の暴動を扇動した似非民主化急進派国会議員の辞職、海外から検察側、被告側の弁護士を連れてくるよう要求する嘆願書を出したようである。略奪・放火などの実行犯達の公聴は12月20日に始まるとのことだが、早急に首謀者達もしっかりと法で裁いて貰いたいものだ。そして、その首謀者達に、公的な場で謝罪をしてもらいたい。
 年末年始の休暇の旅行先が決まっていない方、是非トンガにいらしてくださいね。
12月9日
 暴動翌日に、30日間の予定で発動された緊急事態権限法が更に1ヵ月延長された。これは、危険があるからではなく、今後の暴動扇動者の捜査、逮捕に向けての措置だとのこと。現時点で600名以上の放火・略奪の実行犯が逮捕されたようで、12月20日からザコ達の公判が始まる。扇動した黒幕連中66名はNZ・豪州・米国入管などのブラックリストに載せられ、国外逃避は不可能になっている。(日本の入管にも通知が行っているのかしら?
 以前お知らせした「Silent Majority」の嘆願書はきっとxxさんや、ooさんも居るだろうなぁと思っていたのだが、案の定、昨日友人のxxさんが遊びに来てくれ、彼女も発起人だったことが判った。
 xxさんに今まで私が発信していたメール情報の内容を伝えたところ、間違っていないとの答えだった。そして、彼女は、「直子、今回の事件で7名が死に、それを犠牲者と報道しているメディアが多いけど、単に死者であるべきよ。だって、彼らは、Tonfon事務所から現金・テレカを盗もうとして金庫に入って、金庫の扉が自動ロックで閉まったから、焼け死んだわけでしょ。あれは犠牲者ではなく、神の裁きを受けただけ。それに、あれだけの事件だったのに、狙いは商品・現金・酒類・建物であって、人そのものを襲った人も居なかったでしょ。それもハッキリ記載しなきゃだめよ。」と言った。そして、「今回の事件は本当に恥ずかしく、悲しく、辛い事件だったけど、『民主化』と言うフレーズを掲げさえすれば何をしても許されると安易に考え、国民を見下して扇動・洗脳した連中の化けの皮が剥がれた。『膿』が出たことは良かったと思う。トンガの民主化は連中以外の優秀な真の民主化推進派の人達が着実に進めていたし、改革の速度や方法に国民は満足していたことも表面化したしね。」と追加してくれた。
 ドイツはトンガへの渡航注意事項を全てキャンセルしたそうである。そして、米国のピースコーの人達は、トンガ商工会議所経由で、学校等が2ヵ月近い休暇でもあるから、様々な意味で被害を受けた民間企業に対し、「マーケティング、コンピュータ関連、たな卸し、看板作り、在庫移動の手伝いなど、何でも手助けが必要なら言ってくれ。我々トンガに居るボランティアが手を貸します」と言ってくれた。
 例年なら、11月下旬から年末年始、卒業旅行などの日本人の宿泊希望予約メールがボンボン入ってくるのに、今年は皆無。我が家は、何の被害も無かった。商店の仮店舗が散在しているから買出しに余計なガソリンを使う程度で、相変わらずトンガの海は綺麗だし、フルーツは美味しいし、新鮮な魚介類も手に入る。そして、地元の人達はフレンドリーなままなのに、収入はゼロ。
 3年前の東南アジアの大津波の数週間後、BBCなどでは、瓦礫と化した地域からちょっと離れたリゾートで水着姿の白人旅行者にインタビューしていた。「今、被害地が一番欲しているのは、観光客である。地元経済の再建には、民間企業が営業活動をしっかり再開できることが必須。だから、私達は旅行予定を変えずに、遊びに来ました」と旅行者は答えていた。
 神戸の震災の後も、神戸は必死になって「皆さん、神戸に来てください」と言っていた。空き巣や酔っ払いは暴動以前からトンガにはあった。今のトンガでは、その危険も却って減っているほど。中国系ショップが焼失・破壊され、途方に暮れたのは普通のトンガ人達。その人達は、今は営業を再開してくれた中国系ショップに元通り買い物に行っており、以前よりもずっとトンガ人/中国系住民の関係がスムーズになっている。
 お隣のフィジーも観光立国。NZ・豪州政府はクーデターを非難しているが、旅行代理店の話ではほとんどキャンセルは無いとのこと。でも、きっと、日本からのキャンセルは多いんだと思う。
 破壊・略奪・放火されたトンガの総理が経営するスーパーも近々仮店舗で営業再開とのこと。海外メディア経由で「似非民主化急進派」は総理辞任をいまだに主張しているが、トンガ国内では、もうそのような誘いに乗る人達はいない。あのような事件を二度と起こしてはいけないし、起こさせてはいけないと言う確固たる信念を人々が持っているからである。
 街が焼かれているのを目の当たりにした街中の人達、特にご年配のご婦人達の中にPTSD(トラウマ症候群?)になってしまった人達がいる。実際に被害に遭った人達は、とにかく火事が恐ろしかったこと、酔っ払い集団の目付きが怖かったこと、先祖代々の木造の建物が無残にも焼失していくのを目撃した悲しみなど、新しい耳に語りたいのである。その新しい耳になってあげてください。
 
12月16日
 あと1週間でクリスマスなんて信じられない感じである。例年なら、教会でのクリスマスの準備も佳境に入っているし、それ以上に、街中にお里帰り中の在外トンガ人が繰り出し、トンガ語より英語が得意で、ちょっと洒落た服装をしたトンガ人だらけになっているのに。夜もバーやナイトクラブが帰国トンガ人で溢れ、レストランも予約無しでは入れず、観光局の横の広場には移動サーカスが来て夜中まで人で溢れているのに。
 現時点での逮捕者は700名を越えたそうだが、12月上旬に逮捕されていた600余名の年齢層の内訳が発表された:
 
277 名 (21−30歳)        35 名 (41−50歳)
132 名 (18−20 歳)        16 名 (51−60歳)
97 名 (31−40 歳)        3 名  (60歳以上)
57 名 (12−17 歳)        21 名 (年齢不詳)
 未成年は、日本で言えば少年法のような感じのシステムを作って対応すると数日前に法務大臣が発表した。18歳未満の逮捕者に対しては、本人・親(保護者)・コミュニティからの指導者(村の人か教会の人)と警察、教育指導者、検察が個々に面談して、今回の犯罪行為がどのような結果をもたらしたかを認識させ、事後処理活動に従事させるなどの罰則を決めるとのこと。自らの過ちを認め、与えられた罰則を無事終了すれば、前科者にはしないそうである。
 前科があると、トンガ人は海外に行くビザが取れなくなっちゃうのだ。ビザの申請には警察の逮捕歴証明書(逮捕歴無し証明書)を提出しなきゃならないから。群集心理に巻き込まれ、犯罪行為であることを認識せずに行なった未成年に対する良識的措置だと思う。それに、コミュニティの指導者が参加するってのが素晴らしい。日本と違って、トンガにはまだまだ「隣組」が健全に存在している。家族・親戚・コミュニティ・教会で若者を再度しっかり教育指導して行こうっていう認識があるのは、素晴らしいと思うのだが?
 で、未だに黒幕達は逮捕されていないが、今週始まるザコどもの公判で、証言やら証拠やらを集め、黒幕逮捕に持っていくらしい。どうやら黒幕達は、公判で出てくる証言や証拠が怖くて、全員恩赦を求める行進をしようと計画していたようだが、甘いなぁ。冗談じゃ無いよ。しっかり全員を罰して欲しいし、それ以上に黒幕たちの化けの皮はしっかりと剥がしてやりたいと皆思っているんだから。でも、まだ居るんだな、黒幕たちの口車に乗るヤツらが。
 今回の事件の実行犯達の多くは、MatangiTongaの編集長が言うように、Unemployed(職が無い人)かUnemployable(雇用不可能な人)たちだった。民間企業、それも首都の商店街を破壊したら国家が成り立たなくなるなんて判ってない連中。自分達が健全な収入確保活動と消費活動をしていないんだもん。収入は、海外の親戚か、職がある人にたかれば良くて、消費活動は、無断永久拝借という形態を取っていたんだもんね。中心部から遠くに住んでいれば、誰かの車に乗せてもらって街中に繰り出し、道路端でたむろし、首都を闊歩するオネエチャン達を、Fa'asio(ただ、じっと見ているだけ)して楽しみ、夜はナイトクラブのフェンスの外で知合いが来るのを待ち、知り合いが来たら「ねぇ、オレの入場料払って」とか、「ビール代出して」とかたかっていた連中(このようなタカリの連中のことを「蚊=ナム」と呼んでいる。他人の生血を吸う、邪魔臭いヤツらだから)。
 今回は、現職の人民選出国会議員が数名黒幕として関わっていた。トンガの法律では、現職議員でも国会閉幕中は逮捕・起訴可能とのこと。次の国会開幕まではまだ半年はあるから、余裕だろう。
 中心部ではない郊外の中国系ビジネスの焼け跡が、更地になった。中心部でも物理的被害が無かったレストランは営業を始めた所があるので、そこに食事に行く場合は、検問所の兵士に「xxでランチをします」と言えば、立ち入り禁止区域にも入れるようになった。ひょっとしたら、トンガ人だと身分確認や車内確認があるのかも知れないが、白人や私などは全くのノーチェックだった。街中はまだ、瓦礫処理がほとんどされなかった。
 世界のニュースを観ていると、様々な地域で暴動やクーデターが起こっているが、それに比べたら、トンガのあの事件はまさに狂気の数時間としか言いようがない。あの翌日でも我が家は買出しができたし、事件が木曜日で、週明けの月曜日には政府機関のほとんどは機能していたし、1ヵ月過ぎた今は、ほとんどの商店は仮店舗で営業を再開しているし。
 それから、一昨日は、ヌクアロファ郊外のハベル地区の人達が、被害に遭った中国人ショップの自宅に謝罪に行ったそうである。ブタの丸焼きとタパやマットを持って行って、延々と御免なさいスピーチをして。でも、中国人側の返答をしたトンガ人の代弁者が最高だった。「貴方達が謝ってくれても、我々が失った商品・在庫などが全て戻って来なければ、私達の受けた被害は解消されません」って。で、その後に村の人達はブラスバンドも一緒に連れていき、被害に遭った中国人ご一家を慰めるために、クリスマス・ソングを盛大に演奏した。いやぁ、トンガだなぁ。
 そう言えば、今年の年末は、警察と軍のブラスバンドの巡回演奏も無いだろう。警備と逮捕で忙しいもんなぁ。例年は警察のバンドと軍のバンドが年末年始にトンガ中を巡回してクリスマス・ソングを演奏してくれる。そして、みんなで「おヒネリ」を渡すのである。トンガ版「獅子舞」。ああ、本当に今年のクリスマスはつまらない。
 
 
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<筆者紹介>
又平 直子・アフェアキ
静岡県出身、英語通訳・翻訳業。トンガ人と結婚したが、1996年に末期癌の宣告を受けた夫を郷里で死なせるためにトンガに移住。夫亡き後もその地での暮らしを決意した。1999年から首都ヌクアロファでゲストハウス「ネリマ・ロッジ」を経営しながら、トンガ・日本間の民間外交に尽力している。
   

 

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