PACIFIC WAY
    
    相次ぐ域外国との首脳会議  
 

小 林 泉( こばやし いずみ )

 この5月末,日本はPIF諸国の首脳を沖縄に招いて首脳会議を実施した。いわゆる太平洋島サミットと呼ばれるこの催しは、1997年の第1回会合から3年ごとに開催してきており、今年で4回目。小国ばかりとはいえ、日本のリーダーシップで10以上もの国々を束ねながら太平洋地域でのプレゼンスを高めてきたこの外交イベントは、とかく主体性の欠如を指摘される日本外交のなかで、十分に評価されてしかるべきだろう(今年の会議内容の詳細は、本誌別項に記載)。しかし、残念ながら日本人の大方は、評価どころかこの地域への関心度そのものが低い。ここには、国際政治を揺るがすような懸案事項があるわけでなし、国際経済に影響を及ぼす経済的価値もないという意識、無意識の認識があるからだろう。

  ところがこれら一般認識に反して近年、太平洋を舞台にした国際社会の動きは、以前にも増して活発化している。4月には中国がPIF諸国首脳を招いて開催したナンディー会議があり、6月にはフランスがやはりPIF首脳とパリで会合を開いた。そして9月には、台湾が同国と外交関係を有するPIF6ヵ国首脳をパラオに集めて会談する計画が進行中だ。日本も含めて、半年足らずのうちに4回もの域外国首脳との会議が開催されるのだから、域外諸国が島々の存在を十分に重く見ている証しと考えていいだろう。フランスは03年に続いて2度目、中・台は今年が初回だが、毎年の定例化を目指している。いずれも、島嶼地域の重要性を察知した経済大国が、遅れをとるまいと日本の「島サミット」を真似ての首脳会議だった。米国や豪州、ニュージーランド(NZ)にいたっては、あらためて首脳を招集せずとも恒常的に話し合いの場を有する緊密な関係ができている。

  複数の周辺大国が、積極的に島嶼国首脳らとの接触を求めるのはなぜなのか? そこには近年の複数国の競合によって、資源確保、安全保障、環境問題といった各国のニーズ、利害が島々との関わり面を広げているという背景があるからだ。これら国々の思惑や戦略を結ぶ縦糸横糸が複雑に絡み合って、島々を巡る国際政治が繰り広げられているのである。

  例えば漁業問題。従来太平洋のカツオ・マグロ漁業は日本の独壇場だったが、ここ十数年は台湾、中国、米国、韓国、そしてEUなどの新規参入者が入り乱れ、年毎に漁獲競争が激化してきた。これまで太平洋にはなかった資源管理のための「中西部太平洋まぐろ類条約」が05年に発効し、同まぐろ委員会が創設されたのもそのためだった。また、国際捕鯨委員会(IWC)では、例年のごとく反捕鯨国である豪州、NZ案と日本案との対立が激しかったが、今年の投票では1票差ながら日本案が初めて勝利した。ここにも豪・NZの強力な圧力をはね除けて日本案支持に回ったIWC加盟の島嶼5ヵ国(キリバス、ツバル、パラオ、ナウル、ソロモン諸島)を巡る国際間の政治駆け引きがあった。

  島々との外交関係を巡って熾烈に繰り広げる中・台の援助合戦は、太平洋にこれまでになかった波風を立てている。このことは両国の意図がどうであれ、島嶼地域を中台問題に巻き込んだと言える。これらの成り行きは、米国の太平洋戦略にも大きな影響を与えずにはおかないはずである。

  ここ2〜3年、中国、台湾、豪州、米国、日本、そしてフランス、オランダからも企業家が続々とパプアニューギニア(PNG)を訪問している。いずれも鉱物資源の開発に関わろうとする人たちで、PNGのミネラルブームは知る人ぞ知る現実なのだ。この国には、金・銀・銅はもちろん、石油、天然ガス、さらにはニッケルやコバルトまで、手つかずの豊富な鉱物資源が眠っている。これらの発掘利権を獲得するには、単なるビジネス交渉だけではなく国家的接近が必要だから、そのためにも周辺国による島嶼地域への関心が高まるというわけである。

  以上のように、わずか数年の島嶼地域動向をざっと紹介しただけでも、日本人の従来的一般認識とは大分かけ離れた現実が進行している状況を理解されたであろう。こんな具合だから、太平洋の島々が観光に適した楽園地域であるといったステレオタイプの認識からいつまでも抜け出せないでいると、早晩時代に取り残されてしまう。私が、他国に先駆けて島サミットを仕掛けた日本の外交努力をきちんと評価すべきだ、とした理由はここにもある。

  しかし諸外国の注目が、島嶼諸国にとって必ずしも好ましいとばかりは言えない。島側から見れば、周辺大国が各国競合の中で自国の利害に基づいて仕掛けてくる誘惑やちょっかいは、地道な国家建設の方向を誤らせたり、ガバナンスの乱れによる政治不安を増長させる危険性を孕んでいるからだ。

  例えば、ミネラルブームの前にPNGやソロモン諸島で起こった木材輸出ブームでは、森林の乱伐問題で社会不安が発生し政治が不安定化した。中・台との政治関係を巡っては、国内政治が対立して政権交代に発展した事例もあるし、これまで対域外的には一枚岩だったPIFも中台支持については真っ二つに割れているのだ。鯨を含めた太平洋の漁業に関する豪・NZの立場は、日本あるいは中国や台湾などと明らかに異なっているため、島嶼諸国にとってはどちらに与すべきかは頭痛の種でもある。なにしろ、外からの援助や協力が欠かせない脆弱な国家体質ゆえに、周辺大国との関係性が国家建設の方向を左右するのだから。

  それゆえ島嶼諸国は、個別攻勢に対応するためにもPIF機能を今以上に活用すべきだろうし、周辺大国の方も、島嶼地域を当面の自国利益獲得のための草刈り場にしないよう、十分なる配慮が求められるのである。

 

                             

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