PACIFIC WAY

巻頭言
 島サミット成功後に課せられたもの
   

                                   
                                    小林泉(こばやし いずみ)


 去る4月22日、日本と南太平洋フォーラム(SPF)諸国との首脳会議「太平洋・島サミット」が宮崎で開催された。この会議にはSPF加盟の16カ国・地域に加え、オブザーバー参加のニューカレドニア首脳もそろって来日。そこでは、「日本と島嶼国とのパートナーシップの構築」「地球環境問題」「島嶼地域の持続可能な開発」といったテーマでの議論が白熱し、「宮崎宣言」と「太平洋環境声明」が採択された。

 この度の島サミットに関わる一連のイベントは、日本と島嶼諸国との関係を近づけるという狙いはもとより、日本人の島嶼諸国への関心を高めるという意味からも大成功だった。それは1997年に次いで二度目の試みだけに、前の経験を生かせたことやこれを推進した関係当局の頑張りに負うところが大きかったからだ。

 しかし、小さな島国の首脳が集まる会合がこれまでになく日本国内で注目されたのは、幾つかの偶然や幸運が重なったからでもある。その第一は、サミット直前に起きた日本のトップ交代劇。この会議に熱心だった小渕総理の意志を継いで、森新総理が初めて挑む外交行事としてマスコミが注目するなか、22日の会議はもちろん、その前後の関連行事を含めて三日間にわたり総理自身が島嶼首脳との交流を深めたのである。日本の首相が途上国の複数の首脳たちと数日間を共有したという事例を、私は過去に知らない。

 島嶼地域に対する森総理の関心は、以前から高かった。20数年前、日本ミクロネシア協会が発足した当初から、若き衆議院議員として協会活動に協力、支援してくれていたし、自民党幹事長時代にも島からの要人来日時の歓迎会には激務の合間をぬって出席し、島人脈の形成に務められていた。その意味では、小渕首相の代理として最もふさわしい人物だったかもしれない。

 第二は、今年の主要国サミットの開催地が九州・沖縄に決まったことだ。私は、第二回島サミットの企画が検討されはじめたころ、「何か目玉にするアイディアはないか」と尋ねられた。そこで、「東京以外の場所で開催し、その開催地から会議を盛り上げるさまざまなイベントを立ち上げるべきだ」と提案した。また、問われるままに、開催候補地や実施可能なサミット関連行事のアイディアをいろいろと披露した。だが、「そんなことができれば素晴らしいが、セキュリティー管理の面から、地方での開催は無理」というのが担当当局の反応だったのである。それがいつの間にか宮崎開催になったのは、主要国サミットを九州・沖縄で行うとの政治決定が下されたからに他ならない。

 私の提案地は宮崎ではなかったが、それでも今回の会議は、地方都市での開催で予想されるメリットが十分に発揮された。地元では、住民あげての歓迎ムードが高まり、翌日の地元新聞は一面から三面まで全てが島サミット関連の記事で埋め尽くされていた。これを見た島嶼首脳たちは、日本での自分たちの扱われかたに十分満足したはずである。実際に、FSMのファルカム大統領は「宮崎市民に触れあえて、とても楽しかった。地元民の歓迎ぶりにも感激した」と、東京に戻った直後に筆者に語っている。『政治的懸案事項の解決』というより、『友好、信頼関係の構築』という点に重きがあるのだから、こうした一般住民ぐるみの歓迎ムードこそ島サミットには重要なのである。その他にも地元新聞は、地方都市ならではの小さな試みや出来事を幾つも紹介していた。これらは、参加首脳たちには大きな印象として心に刻まれたに違いない。

 第三は、サミット開催時の島嶼諸国側の議長がパラオのナカムラ大統領だったこと。日本側とは最も気心の通じ合う大統領の一人だった。加えて、日系人であるために話題に事欠かなかったし、島嶼諸国の代表として日本人には極めて印象的で親しみの沸く存在だったと言えるだろう。

 このように、関係者の努力はもちろん、偶然やタイミングにも助けられて第二回島サミットは大成功の内に幕を閉じた。しかし私は、これにより二つの大きな課題を残したように思う。一つは、外交イベントで盛り上がった日本と島嶼国の関係を、今後どのように実質的な関係として結実させていくかという問題である。もちろん、こうした現実への対応の方が遙かに難しい。二つには、以前との比較で島サミットが大きく注目されたとはいえ、日本全体から見れば、島嶼諸国問題がまだまだ限られた人々、限られた範囲での関心事でしかなかったという現実を再確認させられたことである。これを如何に日本全体に浸透させていくかが、これからの課題だろう。日本と島嶼諸国の実質的関係を深めて行くには、それを支える国民的合意がなければならないからである。