PACIFIC WAY

      ミクロネシアに節税企業を誘致
  

小 林 泉( こばやし いずみ)

 昨年から今年にかけて、ミクロネシア連邦(FSM)政府は、「キャプティブ・インシュランス」の誘致セミナーを東京、名古屋、大阪の各地で開催した。キャプティブとは、「企業が日本国外に設立する再保険子会社」を意味するが、日本では一部の専門家を除けば極めて馴染みが薄い制度である。要するに、大企業が節税できるシステムで、有望な投資対象となる産業がない国が外資を誘致するための仕組みである。いわばタックスヘイブンの一種だと考えて良い。

  節税といえば、英領のケイマンやバミューダを思い浮かべる人もいるだろう。太平洋でもバヌアツやマーシャルなどは外国法人への優遇税制を取り入れており、日本はこれらの国々をタックスヘイブン国と認定している。

  ところで誤解されやすいのだが、タックスヘイブンとは「税金のない天国」(tax heaven)ではなく、企業が本国での「税金を回避する」(tax haven)仕組みを意味している。投資対象がほとんどない極小島嶼が、税システムの構築だけで外資を呼び込めるのであれば、魅力的な話である。実際に成功例としてのバミューダ諸島を見ると、総陸地面積53.3平方キロ、人口6万6,000人の島嶼が稼ぎ出す一人当りGDPは76,403ドル(2006年)で日本の34,150ドル(同年)を遙かに凌いでいる。この諸島は、世界の銀行が集まる金融センターにもなっており、これだけの経済的成功を見れば、太平洋諸国がバミューダを目指したとしても不思議はない。ミクロネシア諸国は、あれこれの模索にもかかわらず、独立以来の目標であった経済的自立への見通しが未だに立っていないのだから。

  太平洋島嶼の経済は、俗に「MIRAB」と言われる。出稼ぎ者による送金(migration remittances)、外国援助(foreign aid)、政府財政(government bureaucracy)の三つの柱が国家経済を支えているからである。援助や送金で流入した金が国内で廻って政府収益や税収となり、これがまた政府事業や公務員給与支出となって循環するという構造になっている。ここから、国内では何も稼ぎ出してはいない島嶼経済の実態が見えてくるだろう。

  近年、パプアニューギニアではミネラルブームが起こっている。日本の1.25倍の国土面積を誇るこの国には、天然ガス、金、銅、ニッケル、石油と何でもある。ソロモン諸島は、豊富な熱帯雨林を伐採して輸出資源とした。フィジーには、英植民地時代から引き継いだ製糖業や観光事業がある。国内産業が存在する比較的大きな国々にも別の経済問題が山積しているのだが、極小島嶼では、国内で稼ぎ出せる産業そのものがないのだ。それでもMIRAB構造から脱却しない限り、真の主権独立国家にはなり得ない。だとするならば、実業以外の何かを考え出さなければならないではないか。タックスヘイブンとは、そうした現状認識から生まれた発想に他ならない。

  マーシャル諸島は既に便宜置籍船の受け入れ国になって、世界各国から数十社の船籍登録を実現させた。これによる税収額のデータを私は持ち合わせていないが、これに関する法整備や営業など、すべてを仕掛けたのは米国の会社だ。FSMがキャプティブ・インシュランスというマーシャルとは別の方式での外資誘致策を取り入れたのは、現職のイマニュエル・モリ大統領が銀行出身で、金融知識に明るかったからだと言われている。だがこの制度の一切を作りだしたのも、やはり米国の会社だった。

  その仕組みはさほど単純ではないが、あえて単純化して説明すれば、多額の事業保険を掛けている大企業が、自ら保険子会社をFSMに設立し、通常の大手保険会社が得る利益分を子会社利益として還元するというもの。これは一昨年に法制化された。特に日本企業を誘致対象に絞って法整備されているという特徴があり、既に数社が現地会社を設立してFSM側に税収が発生している。日本企業にとっても、合法的な節税は願ってもないことだ。しかし、これが永遠に続くのかが問題であろう。というのは、先進諸国政府の側も自国企業の租税回避行為を防ぐ方策に常々腐心しているからである。

  タックスヘイブンを放置すると、国内産業の空洞化を招いたり、不正資金のロンダリングに利用されるとの懸念が強いからだ。その対策の一つに「トリガー税率」というのがあって、外国に置いた子会社の法人税差が大きい場合には利益合算して国内税率をかけられる。日本は昨年、トリガー税率25%を20%へ改訂した(適用は来年3月)。これで、外国子会社の法人税が20%以下ならばそれが認められず、国内法人税率40%が適用される。そこで、FSMもキャプティブ制度で設立される会社の法人税率を25.5%から21%に下げた。

  ともあれ、限られた国家収入の方策に知恵を絞るのは島嶼諸国にとって必要なこと、タックスヘイブンもその一つではあろう。だがこれも、先進国の税制頼りというのでは、やはり起死回生の一手とはならない。ならばどうするのか、極小島嶼の経済自立とは依然として悩ましい問題だ。             (小林 泉)

 

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